韓国ベンツEQE火災で浮上する電気自動車の安全性問題:搭載バッテリーは「孚能電池」、韓国21ブランド69車種中24.6%が中国製バッテリーを使用

8月1日、韓国の仁川市で、メルセデス・ベンツEQE 350を巻き込んだ深刻な電気自動車火災事故が発生しました。この事故は、重大な財産被害と住民の避難を引き起こしただけでなく、電気自動車の安全性やバッテリーのサプライチェーンの透明性について広範な議論を招くこととなりました。

火災の状況と被害

事故は仁川広域市西区青羅洞にあるマンションの地下駐車場で発生しました。3日間駐車されていたメルセデス・ベンツEQE 350が突如として炎上し、火は瞬く間に周囲の車両に広がりました。韓国当局は消防士200人と消防車80台を動員し、8時間かけて火災を鎮火させました。この火災により140台の車両が被害を受け、22人の住民が煙を吸い込み病院に搬送され、103人の住民が避難を余儀なくされました。また、火災によって団地内の水道と電気の供給が5日間途絶え、500世帯が影響を受けました。

当時、火災車両は充電中ではなく、外部からの衝撃も受けていませんでした。それにもかかわらず、バッテリーの欠陥が事故の直接的な原因と考えられています。

韓国メディアによると、この事故は電気自動車の安全性と使用されるバッテリーの信頼性に対する懸念を引き起こしました。特に、車両が充電中ではなく駐車中に自然発火した点が注目されています。

火災発生後、韓国のメルセデス・ベンツ社は迅速に対応し、全面的な調査を実施し、EVのバッテリーサプライヤーに関する情報を公開することを約束しました。また、メルセデス・ベンツ韓国は、事故後の対応と住民の生活再建のために、社会福祉機関に45億ウォン(約49億円)を寄付すると発表しました。

バッテリーサプライヤーの透明化推進

今回の火災は、特に中国製バッテリーの使用に関する電気自動車のバッテリーの安全性について広範な疑問を引き起こしました。この事故に巻き込まれたメルセデス・ベンツEQEには中国「孚能科技(Farasis Energy)」社のバッテリーが搭載されており、メルセデス・ベンツは実は孚能科技の株主であり、株式の3%を保有し、両社は共同でバッテリーを開発していることが明らかになりました。孚能科技は2017年からメルセデス・ベンツの動力電池サプライヤーとなっており、EQE、EQA、EQBなどのモデルに採用されています。

国民の懸念に対応するため、韓国政府はすべての電気自動車メーカーにバッテリーサプライヤー情報の公開を推奨しました。8月16日現在、21社の自動車ブランドが計69車種の電気自動車のバッテリーメーカー情報を公開しており、このうち、韓国製バッテリーを使用している車種が62.3%(LGエナジーソリューション、サムスンSDI、SK On)、中国製バッテリーを搭載している車種が24.6%(CATL、孚能電池)となっています。この透明化措置は、電気自動車に対する消費者の信頼を高め、サプライチェーンの透明性を向上させることを目的としています。

ソウル市の禁止措置と韓国政府の今後の対応

同様の事故を防ぐため、ソウル市は電気自動車の地下駐車場への立ち入りを制限する政策を推進し、特にバッテリー残量が90%以上に充電されている車両を制限すると発表しました。この施策は「共同住宅管理規約」の改正により実現される予定であり、公共施設内の急速充電スタンドでは「80%充電制限」措置も試行される見込みです。

韓国国土交通部の統計によると、韓国内には現在、3000台以上の電気自動車が今回の火災と同じバッテリーを使用しています。

もし火災がバッテリーによるものであると最終的に判断されれば、韓国国土交通部はリコール命令を出すことになるでしょう。この事件は、中国版ナスダックの「科創板」に上場した「動力電池第1株」として注目されていた孚能科技に再び波紋を呼ぶ恐れがあります。

今後の展望

孚能科技は2021年にもバッテリーの安全性に関する問題から、BAIC傘下の新エネルギー車メーカー「北汽新能源」が約3.2万台の電気自動車をリコールする事態が発生しています。

GAC(広汽)は孚能科技の最大の顧客であり、そのほかにもBAIC(北汽)、長城、Geely(吉利)、FAW(一汽)、江鈴、長安、東風などの中国国内の主要な自動車メーカーが孚能科技の顧客となっています。

しかし、バッテリーの欠陥については、バッテリーセルによるものなのか、それともバッテリーパックによるものなのか、未だ解明されていません。

2023年末時点で、中国の新エネルギー車の保有台数は2041万台に達しており、今回の韓国での火災は、電気自動車のバッテリー安全性の重要性を再認識させるとともに、中国を含む各国での電気自動車市場の透明化を促進するきっかけとなりました。韓国政府と同様に、中国政府や自動車メーカーも、バッテリーサプライヤー情報の公開や政策規制を通じて、今後の電気自動車の安全性の確保と消費者の信頼の再構築に努める必要があります。

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