中国の自動車産業、ロシアのような地政学的リスク高まる

中国はいま年間2000万台以上の生産規模で、いうまでもなく世界で最大の自動車製造国である。

しかし近年、中国とグローバル市場との関係は、地政学的リスクの影響を強く受け始めている。それは、将来的に中国製自動車は規模が大きく、収益性の高い日米欧などの先進国に参入する際に、さまざまな障壁に直面する可能性があるだけではなく、国内においてもウクライナ侵攻で制裁を受けたロシアの自動車産業のようなリスクもあることを意味している。

現在、中国国内市場は2000万台を超える巨大市場まで成長してきたものの、足元では伸びが鈍化しており、今後もさらに大きな成長が見込まれない。一方、国内では100社以上の完成車メーカーが温存しており、稼働率低下、生産能力過剰の問題が深刻化している。

近年新エネ車を中心に、中国の自動車輸出やメーカーの海外進出が増えて、海外市場の開拓は、中国メーカーにとって必要不可欠な戦略的意思決定になっている。しかし、地政学的リスクが、こうした意思決定に新たな不確実性をもたらしている。

海外の自動車メーカーも、中国メーカーとの付き合いの中で、地政学的リスクを感じ始めており、一部のメーカーは中国との関係を立つよう準備している。例えば7月に、Stellantisは、GAIC(広汽)との合弁会社である「広汽飛克」の提携終了に向けた協議を発表し、中国でアセットライト経営に方針を転換している。生産能力の削減とアセットライト戦略への転換を通じて中国での事業コストを下げると同時に、地政学的リスクを未然に防ぐ狙いである。

調査機関Rhodium Groupの最近の報告書によると、欧州の中国への投資は、近年集中度が増している。投資を続けている大手企業はごくわずかになる一方、多くは増大しつつあるリスクを回避する傾向にある。典型例として、オペルも9月、地政学的情勢の緊迫化を受けて中国での拡大計画を一時停止したと発表した。

サプライチェーンの面では、中国のサプライチェーンへの依存度を減らすことを模索する海外の自動車メーカーが増えている。ホンダはリスクヘッジのため、中国以外の市場向けに単独のサプライチェーン構築を検討していると報じられた。マツダも部品供給の中国依存度の低減を模索し、サプライヤーに対し、日本での在庫積み増しや中国以外での部品生産を求めてきた。

地政学的要因による影響が徐々に出てきたことで、海外の自動車メーカーが中国自動車業界のサプライチェーンの評価、見直しやリスクヘッジに乗り出しているだけでなく、米国で最近成立した「インフレ削減法」(IRA、Inflation Reduction Act of 2022)に見られるように、中国製の自動車、部品が海外市場に参入する際にも市場障壁がますます大きくなることが予想される。同法案では2024年から、中国で生産または組み立てられ、あるいは米政府が「リスクがある」と認定した他の事業体が製造または組み立てたバッテリー部品を搭載したすべての車両が、米国の電気自動車税控除の資格を得られなくなることが明記されている。2025年からは、これらの事業体によって採掘、加工、または回収された重要な鉱物を含む車両も対象外となる。新法案の目的は、自動車や部品の生産や加工のプロセスや資源などを事実上、北米、あるいは米国の自由貿易パートナーのところに戻すことである。

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