関税回避を狙うPolestarの新工場戦略—米韓での生産拡大が鍵

 Polestarが米国と韓国で新工場を稼働させたことは、欧米の関税障壁に対応するための重要な戦略的措置です。

 まず、8月14日にロイターが報じたところによると、PolestarのSUV「Polestar 3」の生産が米国サウスカロライナ州で本格的に始まりました。この取り組みは、米国が中国製の輸入車に対して課している高額な関税を回避するためとされています。米国政府の発表によれば、2024年には中国から輸入される電気自動車に対する関税が25%から100%に引き上げられる予定です。また、EUも2023年7月4日から中国から輸入される電気自動車に対して臨時の相殺関税を課すことを発表しており、その税率は17.4%から38.1%に設定されています。これは、2022年の世界販売台数の大部分を欧州市場が占めるPolestarにとって大きな課題となります。

 次に、Polestarは韓国で「Polestar 4」の生産を開始する計画が報じられました。この韓国での生産は2025年の中頃から始まる予定で、Geely(吉利)が出資するルノーの韓国工場を活用し、生産された車両は主に欧州と米国市場に向けて販売されます。この生産体制の強化により、関税の増加によるコスト圧力を軽減し、欧米市場でのPolestarの競争力がさらに高まることが期待されています。

 Polestarの世界的な生産能力も大幅に拡大されています。データによると、2021年のPolestarの世界販売台数は29,000台でしたが、2022年には51,500台、2023年にはさらに54,626台に増加しました。そのうち半分以上が欧州市場で販売されています。米国市場におけるPolestarのパフォーマンスも顕著で、今年上半期には「Polestar 2」が米国で3,555台販売されました。

 Polestarの欧米での拡大計画は、特異な事例ではありません。中国の地場メーカーであるBYDは、中国国内のサプライシステムやコストがもっとも電気自動車の生産に有利であるにも関わらず、ハンガリーとトルコに新エネルギー車の工場を建設する計画を発表しており、2025年と2026年にそれぞれ稼働する予定です。中国地方国有メーカーのSAIC(上汽)も、欧米の関税障壁が販売台数に与える影響に対応するため、欧州やその他の地域での生産・販売体制の強化を加速させています。

 このような状況の中で、Polestarの最高経営責任者であるThomas Ingenlath氏は、今後も生産体制を最適化し、3~5年以内に欧州の自動車メーカーと提携して、欧州での生産能力をさらに拡大する計画を示しました。また、高金利政策による市場需要の減少に対応するため、材料や物流コストの削減、効率の向上に努め、2025年にはキャッシュフローの損益分岐点を達成することを目指しています。

 しかし、財務状況の悪化がとらないPolestarにとって、キャッシュフローの損益分岐点を達成する最も効果的な方法は、人件費が安く、サプライチェーンが整備されている中国での生産を拡大することであり、その逆ではありません。総じて、Polestarの中国以外での生産能力の拡充は、世界市場での競争力を高めるための戦略的な選択というよりも、欧米の関税政策に対する受動的な対応であると言えます。

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