BYDはなぜ強いのか(その2)

BYDの強さは、もう一つのコア技術=ブレードバッテリーに依存している。

「雷峰網」はBYDのブレードバッテリーが評価を受けた背景を紹介した。それによると、BYDはもともと一般消費者向けバッテリーを生産していた。自動車産業に参入して、とくにF3が大ヒットした2006年に、BYDは LFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)を搭載した初の電気自動車「F3e」を発売したが、当時は充電インフラが整備されておらず、電気自動車への関心度がそれほど高くなかった市場では、時期尚早であった。

その後、新エネルギー車が徐々にブームとなり、2015年には動力電池企業ホワイトリスト(注)が発表され、政府や業界は、奨励や優遇措置を高いエネルギー密度の三元リチウムバッテリーに傾斜して、三元リチウムバッテリーに賭けたCATL(寧徳時代)は勢いに乗って台頭し、動力電池業界においてトップランナーとなった。中国国内市場では、三元リチウムバッテリーの搭載量はLFPを追い上げ、一時は逆転した。これまでLFPバッテリーの搭載量で国内屈指であったBYDは政策の好機を逃した。

2021年以降、動力電池のホワイトリストが失効し、NCM 811を代表とする次世代三元リチウムバッテリーが頻繁に発火する事故を起こして、長い航続距離を求めてNCM 811を大量に採用したGAIC、Xpeng、NIOなどの自動車メーカーを苦しめた。安全性への重視が最優先で、性能が二の次の選択となったLFPバッテリーが再び自動車メーカーの人気を集め、BYDが長年蓄積してきたLFPバッテリーの開発、製造技術が再評価されるようになった。

その間、BYDはバッテリーモジュールの構造をより合理的に見直した、いわゆる「ブレードバッテリー」を送りだした。ブレードバッテリーは、コストをそのままにして、一般的なLFPバッテリーの欠点である低いエネルギー密度を高めた。また、BYDは意図的にCATLの三元リチウムバッテリより安全性が優れていることをアピールするために、何度もニードルパンチ試験を公開して、低コスト、高航続性能、長寿命、より安全なバッテリーパックがBYDの各モデルの動力源として宣伝しており、次第に市場からの評価も上がった。

以上「雷峰網」のまとめを読むと、BYDのブレードバッテリーの成功は、優れた技術力や性能というよりも、他社による行き過ぎた高エネルギー密度の追及とそれに伴う失敗という背景で成り立っている。性能的に下位にあるが、安全性が高いイメージのあるLFPから形を変えて生まれ変わったBYDのブレードバッテリーは「繰り上げ当選」で「優れたバッテリー」として市場に再認識された。ある意味ではこれはBYDにとって予想外の展開であるかもしれない。

では、BYDのブレードバッテリーは本当に安全なのか。一部のユーザーは2022年BYDの発火事故を集計してみた。これによると、2022年上半期のBYDの販売台数は64万台、同時期にネットで検索できたBYDの新エネ車の自然発火事故は計18件であり、いずれもLFPバッテリーを搭載した車両であることがわかった。また、BYDのディーラーは、発火しても騒がない場合は車両を無料で交換すると約束したとの噂もある。噂が本当であれば、もみ消された発火事故を含めて、BYDのブレードバッテリーは、宣伝されるような「発火しない」ものではないと思ったほうが妥当かもしれない。

 

(注)国内バッテリー産業保護、バッテリー企業の乱立を防ぐために2015年3月に工業情報化省は「動力電池業界規範条件」(俗称「動力電池企業ホワイトリスト」)を発表し、事実上の参入規制となった。2019年6月に同規制は廃止された。

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