DJIの社内ベンチャーのLivoxがレーザーレーダーに参入、新たな技術パラダイムを提案

 DJIも自動車産業に参入すると噂されて久しいが、2019年12月25日、CESの予告により、同社がレーザーレーダー産業に進出していることが明らかになった。CESの現場には、DJIの社内ベンチャーのLivoxが2種類のレーザーレーダー=HorizonとTele-15を持ち込んでいる。

 自動運転が勃興して以来、コアセンサーとしてのレーザーレーダー市場には、Velodyne、Quanergy、Luminar、Innovizなどの海外勢に加えて、RoboSense(速騰聚創)やHesai(禾賽科技)などの中国勢も参戦している。

 これにより、レーザーレーダー市場はぎやかな市場になっているが、それでも新規参入者は後を絶たないのは、まだ独占・寡占が形成されておらず、誰にも勝つチャンスが残されているためだ。

LivoxとDJIの関係

 Livoxの説明によると、「Livoxは、DJIの内部からインキュベートし、レーザーレーダーを専門とするチームで、初期にはLivox はDJIの研究開発資源、生産システム、販売チャンネル、アフターサービス拠点などを共有しているが、実質的に独立企業で、将来的にはDJIから完全に独立する」。

 事実、Livoxは2016年に早くも発足しており、2019年1月になって3つの製品シリーズ(Mid、HorizonとTele)を発表した。最初の3年間、Livoxの開発チームは、市場に出回っているすべてのレーザーレーダーの技術パラダイムを分析したうえ、製品の研究、設計、商品化のための信頼性テストを行うことに専念していた。

既存の4つの技術パラダイム

 現在のレーザーレーダーは4つの主要な技術パラダイム、即ち、伝統的な機械式レーザーレーダー、MEMS、FLASH、OPAが存在している。それぞれに長所と短所がある。

 従来の機械式レーザーレーダーは水平線形走査方式を採用し、ブラインドゾーンが発生しやすくなり、走査の持続時間に関わらず、視野の中で一部の物体は見落とされるリスクがある。また機械式レーザーレーダーは、生産技術の制約によって、量産に難しく、コストも高止まりする。

 MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)はシリコンチップ上に集積された非常に精巧なマイクロ振動ミラーを回転させることにより、レーザー光を反射することで走査を実現し、超高速走査速度により高密度な点群図を形成する。

 しかし、MEMSにおける製造工程上の課題として、MEMSマイクロ振動ミラーの走査角度が制御回路によって調節され、角度精度を保証することが主な技術的難点であり、その量産可能性は比較的に低いことだ。

 Flashレーザーレーダーは、データ取得の繰り返し周波数が走査型よりも速く、スキャン速度が速く解像度も高いが、走査型に比べ概して測定可能距離が短く、20メートル以上のレンジに到達するのが困難になるため、市街地など自動車近傍の複雑な交通環境を除いて、主センサーとして適していない。

 OPA(Optical Phased Array)はMEMSやFlashに比べてまだ発展途上であり、OPAの受信部品の技術的な未熟さから太陽光のもとでノイズが大量に発生するため、主センサーとしての利用が困難だ。

 これら4つの技術パラダイムはそれぞれ長所と短所があるが、量産、性能、信頼性のバランスをとるのが難しい。

Livoxが作り出した新たな技術パラダイム

 Livoxは、「非重複走査技術」と呼ばれる新たな技術パラダイムを提案している。

 レーザービームが視野(FOV)内を非重複に走査すると、Livoxセンサーが走査する領域の面積が時間とともに大きくなる。次の図に示すように、Livox Mid-40またはMid-100センサーは独自の花のようなスキャンパターンを生成し、周囲の環境の3D画像の忠実度を時間の経過とともに急速に向上させる。

 Livoxの非重複走査方式では、スキャン時間の増加に伴い、ほぼ100%の視野率を実現しており、同等の価格では、今日の市場で同等のパフォーマンスを実現することはできない。

 また、Livoxも光学構造設計に工夫を凝らし、数千個の電子部品が同時に回転することを回避している。Livoxは、すべての送信・受信部品を安定したバックエンドに移動させ、フロントエンドに2、3個のプリズムのみを用いて高速な純光学走査を行うことで、技術的に安定性を提供することが可能となっている。さらに、Livoxの点群のカバレッジは時間の経過とともに増加し、スキャンを繰り返す必要はなくなる。

量産の可能性

 既存のレーザーレーダーが大規模に量産できないのは、生産工程での課題が大きい。

 DJIのドローンの量産ノウハウをどのようにレーザーレーダーの量産に生かすは、Livoxが製品設計の当初から考えておくべき問題だった。Livoxの答えは「Dl-Packパッケージ技術」だ。

 Livoxはメディアの質問に対して、「Dl−Packはマルチビームレーザーと受信機をまとめて小さなチップに封入してパッケージ化する技術だ。これにより、高い効率と高い生産性を実現できるようになった。また、Dl−Packはレーザーの自動校正を可能にし、煩わしい人工的なアラインメント工程を大幅に軽減した」と説明した。

 またLivoxは、DJIの既存の生産システム、サプライヤーシステム、従業員育成プログラムなどを利用することができ、レーザーレーダーの量産に関わるさまざまな課題の解決に取り組んでいる。

 現在Livoxは一部のTier 1や完成車メーカーと自動運転で協力を行っているほか、L4級の乗用車では、自動運転スタートアップ企業のAutoX(注)と、L4級の商用車では、CIDI(長沙スマート運転研究院)と提携している。

注:AutoXとの提携について前回記事「自動運転スタートアップ企業AutoX、FCAと共同でRoboTaxiを発表」をご参照ください。


参考記事:https://www.leiphone.com/news/202001/Cz9r6XScnBmAjGSz.html

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