L3クラス自動運転は「開戦前夜」

 自動運転の分野では、自動運転の進展が知りたいなら、自動運転車の実用化の決め手となる高精度地図の動きをみればいいという説がある。

 主要自動車メーカーが示したスケジュールによると、今年と来年はL3クラスの自動運転の実用化元年となる。

 このスケジュールに合わせて、高精度地図メーカーは明らかに動きを速めており、BATの動きはさらに速く、3社とも高精度地図量産の先鞭をつけようとしている。

BATの高精度地図での「軍拡競争」

 自動運転分野と同様、高精度地図のサーキットにも大小様々なプレイヤーが詰めかけているが、中国市場でシェアの大半を占めるのは依然としてBATというビッグスリーだ。

 いち早く高精度地図に参入したのは百度だ。2013年の時点で、百度は高精度地図の自主開発をスタートさせている。

 その年、百度は2つの大きな決断をして、1つは百度地図のスマホ版の永久無料を宣言して、自らの力でナビゲーション地図市場のビジネスモデルとゲームのルールを変えて、これで伝統的な地図メーカーを早々に退場させた。もう一つは老舗地図メーカーの長地万方を買収したことだ。この買収は、百度の高精度地図の研究開発能力を大幅に充実させ、高精度地図のデータ収集を率先して開始した。百度はすでに北京市、上海市と広東省順徳市に高精度地図生産採取拠点を3カ所設けており、地図データ収集車は300台近くに保有している。

 その1年後の2014年、アリババは赤字が深刻な高徳地図(Autonavi)を15億ドルで買収し、同年、テンセントは四維図新(Navinfo)の株式11.28%を11億元超で購入した。この2つの取引の背景には、百度のナビ地図無料化の衝撃で苦戦を強いられた地図めーかーたちは業績不振に陥ったことがあった。

 BAT三社は高精度地図の土俵に集まってから、かなり長い間大きな動きを見せず、忍耐強く組織構造を調整したり、地図採集・制作を行ったり、パートナーを増やしたりして業務基盤づくりに励みながら、自動運転戦争の勃発をじっと待っていた。

 ナビ地図時代と違うのは、高徳地図が率先して高精度地図量産の機先を制したことだ。

 高徳地図は2016年8月、高精度地図の初受注に成功したと発表した。顧客はキャデラックCT6で、今年4月には高精度地図の標準バージョンを「開発原価」で提供すると発表した。1台あたりの使用料は年間100元までという。高精度地図のバトルはまだ始まったばかりなのに、「価格戦」に持ち掛けられた。

 CT6発売後、業界関係者が新車に搭載された高精度地図を解析したところ、高徳地図が提供しているは精度がメートル級のADASマップに過ぎず、精度がセンチ級の高精度地図からはまだ相当な開きがあり、CT6の自動運転はL2.5レベルにとどまっていることが分かった。

 2番目に高精度地図の量産受注を発表したのは百度で、18年8月、同社は長城汽車と提携関係を結び、百度の高精度地図を20年下半期に長城のWEYブランドに搭載すると発表した。高徳の中途半端な商品化と差別化するため、百度は当時のプレスリリースで「L3級自動運転高精度地図の商業化・量産化を実現した国内初の地図サプライヤー」と特記した。

 四維図新の受注発表はもう少し遅かったが、「後の雁が先になる」ことを成し遂げた。今年のCES Asiaでは、四維図新が全国初の高精度地図の作成を完了するとし、高精度地図の全国統一基準案の策定を手掛けており、まもなく採択されると表明した。

 7月15日、四維図新とBMW中国は共同で、自動運転用の高精度地図サービスをBMW中国に提供することで合意したと発表した。量産開始は2021年で、今回の提携について四維図新は特に「国内初のL3以上の自動運転地図の量産受注」と強調した。

時間と競争し、BATが真剣に高精度地図に取り組んでいるのは名誉のためではない

 「高精度地図初の量産化受注は誰が手にするのか」という質問に、BATの3社は「業界ナンバーワン」という虚名にこだわっているのだろうか。自動運転に詳しい専門家からすると、BATは高精度地図でこれほど張り合っているのは、むしろ有利なポジションを前倒しに抑えるためであり、奪い合っているのは自動運転時代の伸びしろと競争優位だ。

1、高精度地図は「Winner Take All」の世界だ

 まず高精度地図はL3クラス以上の自動運転の必須条件だ。このレベルの自動運転車両の運転パターンは、自動感知により道路環境を検出し、意思決定を行って車両を制御するものだ。道路環境の感知検出では、センサが関連情報を検出し、その情報と高精度地図との照合を行い、これをもとに車両の位置を判定する。

 高精度地図は自動運転を実現するための基盤とされており、この特徴はクラウドコンピューティングと極めて似ていると言われている。このような特徴があるため、高精度地図は一定の規模を形成した後も、「Winner Take All」の構図になりやすい。

 非常にシンプルなロジックで、高精度地図を搭載している車両が増えれば増えるほど、データが増え、地図のアップグレードサイクルが速くなり、使用効率が向上し、他のメーカーもこの高精度地図を採用するようになりやすい。

 高徳がキャデラックCT6の注文を獲得したことと「開発原価」の低価格を提供する策略は、典型的な「マーケット優先」の考え方に基づくものだ。メディアの報道によると、高徳のCT6に対するライセンスは1件当たり2000元、計10000台しか売れず、総収入は2千万元に過ぎないが、高精度地図を作るコストは数億元かかる上、今後のL3クラスの自動運転には流用できないという。車1台の年間使用料が100元以下の「開発原価」については、高精度地図市場がまだ本格的に始まっていないうちにすでに「価格競争」が繰り広げられている。

 すでにクラウドコンピューティング市場での競争を経験したBAT三社が、高精度地図の分野でスタートから全力疾走しているのも無理はない。

2、受注競争はデータ競争でもある

 BATは高精度地図市場でバトルを広げており、表では受注競争に見えるが、実はデータ競争だ。

 先に述べたように、データは高精度地図の学習と進化にとって重要な意義があるが、高精度地図業界にとってもう一つの重要な意義として、データを通じてバリューチェーンをつなぐ架け橋になることだ。地図サプライヤーが架け橋になることこそが、本当の意味でのインフラ基盤なのだ。

 高精度地図業界の流れを踏まえると、今後の自動運転時代には、純粋な地図メーカーの存続空間はますます狭くなり、データを掌握してデータサービスを提供する高精度地図サプライヤーの方が競争力が増していくだろう。

 なぜなら、地図作りには非常にコストがかかり、高精度地図を作成できるのは、BATのようなレベルの超ど級企業に限る。また、自動運転の応用シーンで言えば、少数の地図メーカーでは、都市交通や物流輸送、さらにはモビリティサービスなどあらゆるシーンをカバーすることが難しく、こうした専門的なニーズに応えるためにより垂直統合ができる大手地図サプライヤーが必要になる。

 このエコシステムでは,BATのようなトップ地図サプライヤーが高精度地図のフレームワークを提供し、さらにこのフレームワークに基づくデータサービスを提供する。中小地図メーカーはBATが提供した高精度地図フレームワークとデータサービスから特定のシーンに対応する高精度地図を作成する。

受注競争は大事だが、「地図作成能力」こそ競争力

 BATは、高精度地図の商業化に向けた量産受注で競争を繰り広げているが、高精度地図の核心的な競争力はやはり「地図作成能力」、すなわち地図のカバー率、要素識別力と更新速度にある。

 まず、高精度地図を作るにはすべての道路データの採取を終える必要があり、これは苦難に満ちた長い道のりだ。

 地図のカバー率の大きさが自動運転技術の可用性を直接決めることになる。走行中の自動運転車は「地図データの欠損」で突然挙動が乱れてしまうと、その時のユーザービリティがどれほど酷くなるかは想像に難くない。高精度地図の不完全による交通事故なら、地図サプライヤーが背負う責任は大きい。

 次に、高精度地図の優劣を決めるのは、「要素識別能力」だ。

 このことはよく理解できるが、「要素」とは、道路状況の構成部分を指し、交通標識、道路沿いのガードレール、案内板、電信柱、車線、路肩、芝生など、さらに道路属性、すなわち道路の曲率、進路、勾配などの情報を含む。

 明らかに要素認識能力が不足し、カバー率が高くない高精度地図は使えものにならない。現在、高徳地図はデータ属性で67の具体的な要素をカバーし、百度地図は200以上の要素、四維図新は「数百種類」の要素を識別できると主張している。

 高精度地図の統一基準が形成されていない段階では、このような「要素認識」の競争は続くだろう。もちろん今後AI技術が進化すれば要素識別能力はさらに強まると思われる。この面では、BATの3社ともまだまだ大きな余地がる。

 最後に、高精度地図の更新速度も、地図サプライヤーの「地図作成能力」を測る指標の一つだ。

 更新頻度は、案内地図が月ごとに更新されるようにすればよい。高精度地図は自動運転に関連しているため、高頻度に更新されている状態である必要がある。高精度地図は、道路状況とリアルタイムに同期しているため、更新は時間刻みないしは分刻みで行われる必要がある。

 現在、四維図新はMap Learningの学習システムに依存しており、自動的に変化を発見、処理し、配信プラットフォームを通じてリアルタイムに更新することができ、「最も鮮度の高い高精度地図」を提供している。百度は、マルチソース感知データ処理、クラウドサービスセンター、データセンターなどで構成されるIntelligent Mapプラットフォームを利用して、分刻みのデータ更新を実現できると主張している。高徳地図はこの点でやや弱みを見せており、(具体的な指標を発表しておらず、道路情報については)現時点では年4回の更新頻度を保つことしか約束していない。

 取り上げるべきは、高徳のような更新頻度は間違いなく本当の意味での高精度地図ではなく、一方、四維図新と百度は更新頻度では高精度地図のレベルに達しているが、更新の質、すなわち更新後の地図のカバー率と要素識別能力が向上または同レベルに保たれているかどうかについては、検証が必要だ。


参考記事:https://www.iyiou.com/p/108014.html

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